【レポート】小劇場リノベーションワークショップ 「セルフリノベーションによる劇場空間の作り方」講師:杉山至(六尺堂)

【レポート】 小劇場リノベーションワークショップ
「セルフリノベーションによる劇場空間の作り方」

講師:杉山至(六尺堂)

2017年2月22日、舞台美術家の杉山至さんをお招きし、一般社団法人おきなわ芸術文化の箱が
7月に新たにオープンする予定の新しい劇場、黒板劇場(仮称)のセルフリノベーション講座と
ワークショップ(以下、WS)を開催しました。

まず最初に杉山さんからは、「通常、劇場の建設を考える際には、どこに舞台があり、どこに客席を設置し、、その席数はいくつで・・と、ハードとしての機能から考えてしまう。けれどもそうして作られてきた日本の劇場の多くは、演劇を上演し、観客はそれを鑑賞するという機能しか有することができないまま“制度化”してきた。そこで、今回のWSでは、以下の3つの点を皆さんと一緒に考え、劇場という場をソフトから考えてみたい」との提示がありました。その3つの点とは、

・どのような場にしたいか?
・どのような人に来てもらいたいか?
・そこでなにを起こしたいか?

でした。これは、上記の点から発想することで、それを実現するために必要な機能性を後から検討し、演劇作品を上演・鑑賞するだけではない、『場』(人と人がアートを介して出会う場、情報発信の場、演劇を創作する場、地域と繋がる場・・etc)として劇場を考えるという提案でした。

次に、そもそも演劇は、どういう状態で成り立つものなのかを考える上で、近代の演出の方法を変えた人物であるピーターブルック、その著書『なにもない空間』より以下の言葉の紹介が行われました。

≪どこでもいい、なにもない空間、その空間を指して私は裸の舞台と呼ぶ。ひとりの人間がこのないもない空間を歩いて横切る。もうひとりの人間がそれを見つめる。演劇行為が成り立つためにはこれだけで足りるはずだ。≫

そして、それを考えるために、原初の劇場とはどういったものであったかのレクチャーが行われました。まず、西洋における劇場の変遷として、古代ギリシャの円形野外劇場が示されました。その空間は森の中に円形の舞台を設置し、そこから人間の視界である220度の角度に客席が設けられ、その数は1万席以上あるとの事。さらにその1万席に声を届けるために風向きを含め、天然のスピーカーの効果が計算されたとの事でした。そこでは、神、超越的なものとの対話の場として劇場が定義され、それは同時に広場として設定されていたとのお話がありました。

一方、日本では、原初の芸能・劇場空間は、道(往来)に設定され、現在のお祭りとして、京都の祇園祭り、栃木の山上げ祭りに残るように、練り歩く芸能がスタートであったとの事でした。またその際に、東西南北の風水の要素、劇場空間を周囲の自然環境や、人間の生誕の通り道としての参道を劇場空間に見立てる形で構成されていたとの事でした。

これは、原初の劇場が、西洋が『コーラ』(現在のコーラス)として、神との対話の場として設定されたのに対して、日本では、『アジール』(現世とあの世との境界)として、河原、火除け地、境内、あるいは結界として設定されたとの事でした。したがって、能の舞台でも一般的に3間四方の舞台空間が舞台と思われがちだが、重要なのは橋懸りとして置かれた舞台空間をつなぐ廊下・通路が非常に重要な構成要素であったことが解説されました。

なお、当時の舞台の客席は、西洋も日本も舞台に対して3方向に設置され、舞台を正面からだけ見るプロセニアム様式(額縁舞台)は、もっとずっと後世になってから登場してきた話がありました。そして、プロセニアム様式の登場は、西洋では、遠近法の開発、また王の権威を示すために編み出された様式であったとのお話もありました。

従って、舞台空間を構想するときに、必ずしも近代(特に明治期)に海外から近代演劇を輸入する際にもたらされたプロセニアム様式に捉われる必要はなく、多方向から舞台を見る様式の方が、実は演劇史から考えると、洋の東西を問わず長く用いられてきた様式ではないかとの事でした。

次に、杉山さんが実際に訪れたセルフビルドの劇場の例として、いくつかの劇場の紹介がありました。

・フランス・パリの『ジュヌビリエの劇場』
(2つの劇場、稽古場、アトリエの併設、
強力な制作チームの存在、地域に開かれた取り組み(オープンアトリエ)、併設のカフェが地域のアートサロン的役割を
果たしている。また地域の治安にも貢献)

・オーストラリア『モルトシアター』(元ビール工場)
(2つの劇場、ワークショップエリア、研修エリア、事務所機能、カフェ、レストラン機能、演劇学校、
アートファクトリー機能を担う巨大な工房)
※ドイツのハンブルクのオペラ劇場もアートファクトリーの機能を持つ

・スイス『エーグルの劇場』(元粉ひき工場)※現在は閉鎖
(劇場、カフェ、アトリエ、地域の人々が集まる場、町と劇場の相互関係(宿泊・飲食など)
※城崎アートセンターがある城崎温泉の外湯巡りのシステムが類似(町全体に利益を還元。町全体でおもてなし)

・三重『津あけぼの座』と『ベル・ビル』
(三重県立文化会館との魅力的な相互協働関係)

・鳥取『鳥の劇場』
(国際的な演劇祭の実施、地域を巻き込んだ文化拠点としての劇場のあり方)

・長野(信州・上田)『犀の角』
(荒井氏の努力、宿泊施設の併設(アーティスト・イン・レジデンス)

・京都『アンダースロー』
(劇団地点の専用劇場、レパートリーシアター、カルティベートチケット・システムの考案)

また、杉山さんがこれまでに訪れた劇場の中で、理想的な劇場として、弘前という町の魅力を堪能すると共に、アート展示エリア、カフェ、ショップ、中庭空間の魅力と、体験した闇の濃さが魅力であったという青森県弘前市の『スペースデネガ』、地域が作る劇場空間として近所の主婦の方や無農薬農家の方などが持ってきてくれた野菜や魚などの食材のおいしさと、劇場となった米倉を所有するお米屋さん達の歓待とともに、一時だけ劇場として開設されたという、忘れえぬ素晴らしい体験になったという山形県遊佐町の『筒井米穀店米倉』の紹介がありました。

これは、劇場が、演劇作品の上演の場としてだけでなく、地域の魅力を知る機会になりうること。そこでの歓待など、アーティストやスタッフにとっても創作の刺激となるような人情との触れ合い、またその場所が、さまざまな機能を有することで、アートを介したサロンとして人々の交流や相互理解の場となっていることを端的に示しており、そこに訪れた杉山さんが感動したことを通して、魅力的な劇場とは、どういった場でありうるのかを伺い知る機会となりました。

最後に、WSに参加した15名ほどの参加者それぞれが考えた、前述の3つの点の発表が行われました。

代表的な意見として抜粋して下記に列挙します。
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【どのような場にしたいか?】
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・沖縄の演劇人、演劇好きが暇なときに顔を出す所
・近所の人も飲みに来る
・子供から大人まで月に1~2回楽しみに待つイベントが行われる場
・アート的な外観
・デートスポット
・アートカフェ
・大人から子供までみんなで舞台を作る
・色々なジャンル(音楽・美術・ダンス・芸能など)の人が出会う場
・想像力が弾けるように湧く場所
・人が話し合う場
・美浜やおもろまちで遊んでいる人
・県外の小劇場の芝居がみたい
・演劇以外のアートの発信
・公文みたいな所
・ここの劇場は良い作品が多いと思う
・うまい料理と酒がある
・みんなの遊び場
・地域のアートサロン

—————————————
【どのような人に来てもらいたいか?】
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・近所の人
・日本中の劇団
・沖縄の劇団
・偉い人、お金持ち、パトロン
・小学生
・表現をすることで足りないものを満たしたい人
・表現されているものに触れることで足りないものを満たされる人
・内地の人
・うちなんちゅの人
・既存のコミュニティに属することに違和感を抱えている人
・知り合いじゃない人に出会いたい人
・海を見に来た観光客
・働いている人
・普段、劇場に来なさそうな人、文化に興味ない人
・芝居好き、アート好き
・変人・奇人
・演劇は面白くないと思っている人
・演劇人・芸術家

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【そこでなにを起こしたいか?】
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・沖縄と本土を含む「外」との窓であり扉である
・他の劇場と連携した演劇祭の開催
・舞台を語り合うことで仲良くなれる
・物語を劇場の外に拡張する
・虚構・仮構の場だからできる発想を自由に広げたい
・地域行事との連携
・コラボレーションの場、何かが生まれること
・伝統芸能との表現をたがやす
・ロングランの作品が生まれて欲しい
・ワークショップ
・アクティブ層を作る
・いろいろな人が出会うからこそ出来るおもしろい演劇を生み出せたら
・演劇人が出会うことでいろいろな場所とのつながりが出来て沖縄発信の芝居が作れれば

以上

文責:川口聡

主催:一般社団法人 おきなわ芸術文化の箱
支援:沖縄県、公益財団法人沖縄県文化振興会
<平成28年度沖縄文化活性化・創造発信支援事業>

杉山至(すぎやま・いたる)


1966年生。舞台美術家。国際基督教大学卒。在学中より劇団青年団に参加。2001年度文化庁芸術家在外研修員としてイタリアにて研修。近年は青年団、双数姉妹、ポかリン記憶舎、地点、サンプル、山田せつ子、Dance
Theatre LUDENSなど、演劇/ダンス/ミュージカル/オペラ等幅広く舞台美術を手掛ける。第21回読売演劇大賞・最優秀スタッフ賞受賞。舞台美術研究工房・六尺堂ディレクター、桜美林大学・四国学院大学・京都造形芸術大学非常勤講師、NPO法人S.A.I.理事、二級建築士。

主催:一般社団法人 おきなわ芸術文化の箱
支援:沖縄県、公益財団法人沖縄県文化振興会
<平成28年度沖縄文化活性化・創造発信支援事業>

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